素敵な呪文

感想文

何かいいものを求めてます。それらの所感を投げ込みたいときに使う場所です。
2008年12月にいったん終了。1年後の12月に、コンセプトを改めて再開してみました(過去記事はそのままです)。よろしくどうぞ。
書店員を経て出版社に勤める漫画スキー(特にBL)。
その他頻出ネタとしてはTM NETWORK、90年代ビーイング、ジャニーズなど。
時事ネタも何かどうしても不特定多数に向かって叫びたいような出来事があれば書いています。


指で語る共通言語

ひだまりが聴こえる-リミット-3 (Canna Comics)

ひだまりが聴こえる-リミット-3 (Canna Comics)

  • 作者:文乃 ゆき
  • 発売日: 2020/05/28
  • メディア: コミック

 シリーズ5冊目。ひだまりは幸福論から読み始めて一気にハマったのですが、この「リミット編」は二人がお互いの想いを再確認するまでのもだもだを時間をかけて丁寧に描いただけでなく、二人の周辺の群像劇としても機能しており、正直殆どBLじゃないなと思いながら(笑)追いかけていました。だけどそれが本当に良いんです。
 リミット編のテーマは、聴覚障碍者が健聴者中心の社会で生活する上での様々な葛藤や孤独と向き合う姿だとお見受けしました。太一と航平、千葉とリュウ、犀さんと愛した人。彼等にとっては特殊でもなんでもないむしろ素敵な出逢いなのに、無理解な社会の大勢がそれを是としない…というか、関わり方が解らない。その荒波が二人の関係を変化させてしまう。主なるは障碍者の孤独ですね。いや、お互いが大切だからこそ、障碍者は「迷惑をかけたくない」と思って身を引いてしまう。それを、向こう見ずながら真っ直ぐで憎めない太一の性格がどんどん突き破っていく。だからこの漫画、太一と航平のBLは物語のほんの一部で、主人公の太一が障碍者とその周りの人々の心と行動を変えていくヒューマンドラマであると僕は捉えているんですよね。そういう意味で、BLはノーサンキューな人にこそ読んでほしいのです。
 今回、太一がSig-nという障碍サポートの会社で本格的に聾や盲といった身体障碍に携わっていくのですが、ハンデがあろうと自分と同じものに触れて同じ気持ちになることはできるという太一の精神はすごく大切だなと自身も考えさせられました。僕は身近に聴覚障碍の後輩がおり、成程LINEやビデオ会議のチャットは凄く便利なのですが、それ以外の場となると彼は遠慮して(諦めて?)出てこないんですよね。その場の空気を味わおうと言っても、音が聴こえにくいだけでその空気のかなりの部分が削がれてしまうことを想像すると、やはり無理に誘えない。太一の思いは実際、物語でも青臭いと批評されますが、行動原理が可か否かじゃなくて純粋な「喜怒哀楽」なのが太一の魅力。「助けてやりたい」「フォローしてやりたい」といった偽善(障碍者から見て)も太一にはありません。これすごいよな!というのを分かち合いたいんだけどそれが難しい、じゃあこうすりゃいいじゃん何がおかしい?みたいなね。これって凄いことですよ。たとえば手話や点字(外国語でもいいです)を勉強しようと思ったことがある人ってかなりいるに違いないけど、習得してる人は本当に少ない。でもこの漫画読むとなんとなく理由に気付くんですよね。僕に限って言えば、言語の壁を乗り越えてどうしても伝えたいことが無かったんだろうと。それはやっぱり偽善だったと思う。だから、航平とのラブが実ったこともBL漫画ファンとして心から嬉しいんだけども、太一が航平を思う心のブレなさに、不甲斐ない自分もすごーく励まされたんですよ。それがこの作品の一番の価値です。

 太一に感化された千葉は、実家に顔を出しリュウに真っ直ぐ想いを伝えます。いや名場面すぎる!!千葉が家に入ってから庭で独り泣き崩れるリュウ。これを涙無くして読むのはムリです……。学生時代の犀さんが教室で声をかけるシーンも、いま書きながら思い出しても涙が出るわ。
 マヤはBLの脇役女子としての役目をしっかり果たしつつ、実は航平と同じ気持ちで太一を見ていたことに気づいてしまい号泣する。ここも良かったですねー。ヤスとマヤはBL内のNLカップルとしてめっちゃ好きです。頑張れヤス!
 そして、今回のMVPはなんといってもじいちゃんですね。あのねぇBLに登場するじいさんばあさんにはかなわない!悟りすぎ!!www 航平が太一との関係にじめじめ悩むのは仕方ないことだとも思える。そこをもうね、だからどうしたって取っ払ってくれるじいちゃんの懐の広さよ……最高です。勿論二人の交際関係はじいちゃん知らないですけど、これね人間愛として見てくれてるのが素敵なんですよ。なんかもう、付き合うとか付き合わないとか大したことじゃないんだな、って一気に霧が晴れるようなことを言ってくれてますよね。そばにいてやってくれって誰にでも適用できる最高の応援だと思う。


 めっちゃ長くなってしまいました。今後は新章がスタートするようですし、航平×太一もラブラブモードになるみたいですし、ただただ期待が膨らみます。こういう漫画に出会えるからBL読んでてよかった。障碍を扱ってるけど難しい話では全くないし、沢山の人に読んでほしい温かい漫画です!