素敵な呪文

日々の感想文。気が向いた時に書き散らして気づけば17年目。80~90年代J-POPと7ORDERは多く取り上げます。

何かいいものを求めてます。それらの所感を投げ込みたいときに使う場所です。
2008年12月にいったん終了。1年後の12月に、コンセプトを改めて再開してみました(過去記事はそのままです)。よろしくどうぞ。
書店員を経て出版社に勤める漫画スキー(BL多め)。
その他頻出ネタとしてはTM NETWORK、90年代の邦楽、7ORDERなど。
時事ネタも何かどうしても不特定多数に向かって叫びたいような出来事があれば書いています。


君の瞳にウォンチューさん

 ゆっくり時間が流れていく午前が好き。なんか昼ってあっという間に終わりますよねー。



 ここんとこまた読み返してました。もう20年前の漫画なんですね……しかし色褪せない傑作。
 ヤクザ絡みで7人を殺害し死刑囚となった田嶋(囚人番号042号)が死刑制度廃止法案のための実験体として塀の外に出ることになり、実験責任者の椎名や実験場となる高校の人々との関わりを通して人間としての心を取り戻していく、というヒューマンドラマです。042号の不器用ながらも心優しい部分に触れ情が湧いていく周りの人々の変化も見所。職務としての実験や法改正への責任、是か非かの二元論と少し違う面で死刑や犯罪について考えさせられていきます。
 着想は恐らく『グリーンマイル』(時期も一致してるし)。映画では冤罪によって死刑判決を受けたコーフィが「生きるのに疲れた」とこの世を嘆き裁きを選びますが、042号は犯罪者であることは間違いなく最期も決まっている(1巻で既に死刑執行を示唆しているのでいいですよね)。でも「楽しかった」との言葉を遺してこの世を去る。似たようなシチュエーションに対極の設定を敷いて、かつ悲劇になりすぎないように現代日本の物語に仕立て上げています。そのくせ、もともとホラー的な要素を得意とする著者の筆致で、コミカルな絵柄にもきちんとスリリングな場面を演出できているのが頼もしいところ。
 舞台が高校なのは安易さもありますが、子どもの自由さ残酷さは時に素直さの裏返しでもあり、042号との距離感もやはり10代ならではというか、大人になった今読むと正解だったと感じます。盲目の少女ゆめが最初の理解者(と言うのかどうか)となるのもよく考えられた設定です。見た目や経歴という表面じゃなく声とか雰囲気で人を見分ける力を持っていると思いますし、点字ボランティアという作業は囚人が身につける社会奉仕スキルとしてリアリティがあり気が利いていますよね。
 また、042号がここまで皆に愛されたのはやはり椎名の功績でしょう。謎が多い田嶋の過去(と顔の可愛さw)に目をつけ、「彼はサイコパスじゃない、感情を取り戻せる」とカウンセリングを自ら担当。友人として心を通わせつつ、学者として毅然と時にずる賢く外の対応に取り組み、凶悪犯罪者である042号の居場所を確保していきます。「僕は田嶋の親なんだ」との台詞、結構刺さるんですよね。
 何人もの「普通の人」が、殺人鬼に生きていてほしいと願う姿はやはり漫画であり、だからこそエンタテインメントとして成立するのですが、賛否分かれる&政治的なテーマのためかどう見てもテレビドラマ向きな作品なのに未映像化、勿体無い。今からでも見てみたいです。