ミステリ要素の強い冬目作品の中では異質だと思います。奇怪な設定、脱走等のスペクタクル、謎多き相関図……確かに気になります。けれど、描いているのは人間同士のやりとりに他なりません。同じ環境で生きてきた人間でも違うものを求めてしまうし、むしろ大切なのは「内と外」ではない誰かを思う心。そんな当たり前のことですが、強く思いました。人は独りで生きてはいけませんから。
誰の顛末も描かれることない淡々としたラストだという方もいるでしょうが、これで正解じゃないでしょうか。槙も桐子も互いを忘れることはないでしょうし、二人の出逢いを読み返すと、人は変わっていくものだなと感じました。
あと、とにかく唸ったのは背景を含めた「引き」の構図です。さすが美大出身。素晴らしすぎる。