素敵な呪文

日々の感想文。気が向いた時に書き散らしてます。80・90年代J-POP、7ORDERの話題は頻出。since 2006.3

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80・90年代J-POP、7ORDERの話題は頻出。
since 2006.3


真夜中はすべての始まり

 『ミッドナイトスワン』鑑賞してきました。だいぶ遅くなりましたけど映画館で観ることだけは決めていたので、15分の予告映像を除きネタバレをすべて避けて臨みました。大筋と結末は予告だけで理解できるので(多分わざと)、それ以外の部分を本当に楽しみにしてました。
 ここは僕の日記なので、ネタバレ上等、率直に自分が感じたことだけ書きますね。


 まず、評判どおり草彅剛の演技は本当に凄かったです。剛が凄いのはとっくに解ってるんですけど、これまた皆言ってますがあれ「凪沙」です。草彅剛だということをわざわざ思い出さないといけない瞬間が何度もありました。僕3部作*1や戦争シリーズなど振り幅の大きい芝居がもともと達者な剛ですが、この役は善人→悪党みたいな極端な変化じゃなくて、微妙にしかし確実に現れる母性を増やしていくようなところがあり、その変遷を見せる上で非常な難役です。でもそれをリアルにして見せた。演じきれるのは剛しかいないですね。そういえばこないだ剛が、実は凪沙を演じる際にかつてユースケさんが演じた役を参考にしたんだと急に言い出して「それをもっと他で言えよ!」とユースケにドヤされてましたが(笑)。
 昔から高い評価を得てきた草彅剛ではありますが、えーそれホント?と言う人誰もがこの映画一本観ただけで「凄い役者、天才」と理解できると確信しました。つまり本作を傑作たらしめたのは間違いなく草彅剛の芝居です。

 それから服部樹咲。一果をとても立体的に演じていて勿論良かったですし、最後の20分でバレエ以外の…女優ポテンシャルを感じさせてくれてます。で、りん役の上野鈴華がまた素晴らしかった。彼女はきっと毛色の違う作品でもどんどん活躍できますね。今風の裏表ある女の子をあんなに自然に演じられる子がいたんだと吃驚しました。

 全体的に台詞や説明が少なめなのも、本当の意味で日本人の作品っぽくて良かったですね。空気を読みすぎたり間を好んだり。無駄に考えさせる。様々な対比は解りやすかった。田舎と都会。成長と挫折。大人と子供。「何が本当の幸せなのかを考えるきっかけに……」とかなんとか言うブログとか評論家がめっちゃいそうだなーって思わせるような演出でした(それ自体はこの映画に関しては合っていたと思います)。そうそう、性転換と言えばらんまっての凄くないですか?(笑)この映画で見ると切なさもありますけど。これも現実との対比含んでますよね。賛否両論あるエンディングでしょうが僕は好きです。猥雑な新宿の街が夢の舞台USに変わり、凪沙の武装を纏ったような一果が歩いて行く後ろ姿は「強く生きる」を選んだことがよく伝わります。

 ただめちゃくちゃ考えさせられるために、何て言うのかな、思わず涙がこぼれるような映画では無かったですね。だから僕が最も感動したのは、白鳥の湖を凪沙と一果が一緒に踊る場面でした。予告映像にも出ているんですけど、映画の中でちゃんと通して観たほうが絶対良いです。そもそも「泣けた」ってのあんまり押し出さない方がいいんじゃないかなぁ?*2そういう映画じゃないと思いますよ。見てても「え?」と思う場面が何度もありますから。中学生があんなアングラな店に連れていかれて危ない大人が騒いでる中で踊っちゃうとか、それを見て大の男(暴れた奴)が見惚れてるとか、客の頭をキレてかち割るとか……りんの最期とか冷静に見るとギャグですよ。ありえねぇだろそりゃって。

 それともうひとつ。広島の実家で凪沙を殴った男、すいませんどういう関係の人?ちょっと注意不足で不明のまま観てしまって……いやでもあんなヤカラが紛れ込んでるのどう見ても良い環境じゃないだろ(笑)。一果のバレエにはノータッチだったと思うんですが、それも実花先生(真飛聖)がわざわざ遠征してくれてる以上無理だろうし……。まぁ、この辺は一果が意志をきちんと表明できるようになり(卒業式での周囲とのやりとりで解る)、それが母(水川あさみ)らに伝わったと理解するしかないか。


 内田監督の狙いは恐らく「議論を生む」ことだと思うので、狙いとしては大成功だと思います。剛の本気の演技をはじめ、キャストの実力が極めて高いゆえに、上述したような作中のちょっとした綻びが逆に際立ってしまってるのが少し勿体無いですね。余談ですが、スタッフ名のトップに飯島さんの名前が出てきたのはなんか感動したなぁ。CULEN presentsも。新しい地図の映画観たの初めてなので(ホントすいません)いつも出てるのか知らないけど。

*1:途中で、僕と彼女と彼女の生きる道に似てるなと思いました。あれ思いっきり父性溢れて全てを子に捧げる役でしたもんね。

*2:って最近の邦画界全体に言えることですけど。